生成AIの普及により、多くの企業で業務の進め方が大きく変わりつつあります。国内企業でもLLM(大規模言語モデル)の活用は急速に広がっており、2025年以降は企業規模を問わず導入や検討が進んでいます。こうした流れの中で、グリッドは電力業界に特化した生成AI「GeNom for Energy」を開発しました。

今回グリッドは、より多くの皆様に本プロダクトの価値をお届けするべく、「GeNom for Energy」開発プロデューサーの吉田に加え、実際に本システムを導入・活用いただいている北海道電力株式会社 需給運用部部長・伊藤様をゲストにお迎えし、ウェビナーを開催いたしました。

ウェビナーでは、「GeNom for Energy」の開発背景と機能、そして北海道電力における実際の活用事例が紹介されました。本記事では、その内容をレポート形式でお届けします!

第1部:電力特化型LLMが変える働き方

(登壇:株式会社グリッド「GeNom for Energy」開発プロデューサー 吉田)

ウェビナー前半では、グリッドで「GeNom for Energy」の開発を主導した吉田が登壇し、電力業界におけるAI活用の課題について説明しました。

汎用AIだけでは解決できない「専門知識の壁」

近年、生成AIは日常業務の効率化や情報整理に広く活用されています。しかし、制度や技術的専門性が高い分野では、汎用AIの活用には依然として限界があります。

電力業界では、政策や制度の変更が頻繁に行われており、その背景や経緯を理解するためには膨大な資料を参照する必要があります。汎用AIは幅広い知識を持つ一方で、こうした業界固有の文脈を十分に理解しているとは限らず、結果として人間による裏取りや確認作業が必要になるケースが少なくありません。

さらに、長年業界を支えてきたベテラン人材の退職が進む中で、専門的な知見をいかに組織として継承していくかという課題も顕在化しています。制度の背景や議論の経緯といった暗黙知が属人的に蓄積されてきたため、それを新しい世代へ引き継ぐことが難しくなっているのです。

そのような状況を受けて、近年は特定の業界や業務に特化したAI、いわゆる「Vertical AI」への注目が高まっています。

電力業界に特化した生成AI「GeNom for Energy」

こうした課題を解決するためグリッドが開発したのが、電力業界特化型生成AI「GeNom for Energy」です。

「GeNom for Energy」は、電力業界の制度や政策に関する主要な公開資料を網羅的に収集し集約したデータベースを基盤としています。資源エネルギー庁や電力・ガス取引監視等委員会、電力広域的運営推進機関などの公開資料を中心に、二万件を超える一次情報が整理されています。ユーザーが自然言語で質問すると、これらの資料を横断的に参照しながら回答を生成し、同時に引用元となる資料も提示します。

最大の特徴は、単にPDFを読み込んで検索できるようにしているわけではなく、グリッドのエンジニア、コンサルタントが資料に独自のメタデータを付与し、AIが制度の文脈や議論の流れを理解できるように設計した点です。これにより、制度の背景や審議会での議論の経緯といった情報まで含めて、整理された形で回答を得ることができます。

さらに、制度、政策に関する情報は頻繁に更新されますが、更新後1週間以内を目処に「GeNom for Energy」のデータベースに反映されます。ユーザー自身が資料を登録したり管理したりする手間なく、常に最新の情報を参照できる点も大きな特徴です。

第2部:北海道電力でのLLM活用事例

(登壇:北海道電力株式会社 需給運用部部長 伊藤様)

続いて、北海道電力の伊藤様より、現場のリアルな課題が共有されました。伊藤様は1988年の入社以来、北海道電力で長く需給・制度関係を担当されてきたスペシャリストです。

現場を悩ませる「激しい制度変更」と「知識継承の壁」

北海道電力様が直面していた第一の課題は、頻繁な制度変更への追従です。電力システム改革(2015年の広域機関設立、2016年の小売全面自由化、2020年の発送電分離)以降、特に需給調整の制度は毎年のように変更されています。毎年のように変わるルールを正確に把握し続けることは、ベテランにとっても至難の業でした。

第二の課題は、人材育成です。需給運用部は他部門からの出向者が多く、約3年で異動するジョブローテーションが一般的で、知識や経験が組織として積み上がりにくいという深刻な課題を抱えていました。

こうした状況を打破すべく、北海道電力では2025年10月頃から「GeNom for Energy」のプロトタイプの利用を始めました。

実践事例1:新配属メンバーの学習サポート(キーワード検索)

具体的な活用例として、まず挙げられたのが「教育・学習サポート」です。例えば、汎用AIで「約款」と検索すると、保険の約款や運送の約款など、幅広い意味で捉えられがちです。

しかし「GeNom for Energy」であれば、電力業界の文脈に基づき、即座に「託送供給約款」の具体例を提示します。業界特有の用語を正確に引けるため、新人のスキルアップに直結します。

実践事例2:文脈を捉えた「データ整理・要約」

次に紹介されたのは、社内資料作成や監督官庁への説明準備における「データ整理」の活用です。「需給調整市場の歴史を表形式にして」といった指示に対し、「GeNom for Energy」は単なる表面的な年表ではなく、制度創設の背景、政策議論の経緯、制度設計のポイントまで含めた深いレベルで整理します。このおかげで、社内資料の作成や説明が劇的にスムーズになりました。

実践事例3:膨大な議論からの「経緯や背景の読み解き」

伊藤様が特に高く評価されたのが、審議会等での特定委員の発言要旨のまとめです。かつては膨大な資料から手作業で抽出していた作業が一瞬で完了するようになり、電力システム改革の経緯や方向性の理解に大いに役立っています。

総括として、伊藤様から「GeNom for Energy」は非常に優秀なアシスタントであり、業務のバイブル。メンバーのスキルが上がり、私自身も安心している」というコメントをいただきました。

質疑応答

ウェビナー後半では、参加者から寄せられた質問に講師が回答する、質疑応答の時間が設けられました。

Q. 汎用生成AIとの最も大きな違いは?

伊藤様: 汎用AIは幅広く答えてくれる良さがありますが、他業界のキーワードと混同され、ニュアンスが異なる回答が出ることがあります。「GeNom for Energy」は公的な審議会資料等から最終的な答えを引っ張ってくるため、用語の適切さや文章の正確さにおいて一歩抜きん出ています。

Q. 「GeNom for Energy」を使用して最も効果が大きかった業務は?

伊藤様: 新しく配属された方への教育です。制度変更が早すぎてマニュアル作成が追いつかない中、「GeNom for Energy」を使えば各個人が自分のペースで背景や詳細を深掘りして学べるようになりました。

吉田: マネジメント層の方が、部下からの質問に対して事前に正確な背景を調べるための壁打ちツールとして重宝しているという例も伺っています。

Q. ハルシネーション(もっともらしい嘘)への対策は?

吉田: 可能性はゼロではありませんが、公的な公開資料のみを読み込ませているため、ノイズは極めて少ないです。対策として、AIの回答を別モデルで検証させたり、最終的には当社のメンバーが人の目でチェックしたりして、回答精度を高めています。

伊藤様: 実際に使っていても、曖昧な回答やハルシネーションは今のところ見当たりません。私が意地悪な質問をして粗探しをしようとしても全て正確に答えてしまうため、改善点や弱みが見当たりません。

Q. どの領域の情報を網羅しているのか?北海道特有の話題にも対応できるか?

吉田: 電気事業法、経産省のガイドライン、広域機関や総配電網協議会、JEPXの規定、各委員会の議事録などを網羅しています。

伊藤様: 「冬季の需給検証」のような北海道特有の地域限定の話題であっても、審議会で議論されていれば漏れなく拾ってくれるため、情報の深さを実感しています。

Q. 今後の機能追加や他分野への展開予定は?

吉田: レポートやスライド出力機能はご要望が多いため、今後の追加機能として実装を検討しています。分野に関しては、環境省など他省庁の資料や海外規格の追加、さらには鉄道やガスなど、他の社会インフラ分野への展開も検討しています。

伊藤様: むやみに横(他省庁)に広げるとハルシネーションのリスクが高まる恐れがあるため、職種に限定した特化型を複数立てる形も今後の検討課題になるかと思います。

終わりに

ウェビナーの締めくくりとして、「GeNom for Energy」がもたらす価値が再定義されました。

それは単なる「時短」にとどまりません。エントリー層の早期戦力化、実務層の調査コスト削減、そしてマネジメント層の意思決定の質向上。これらを通じて、組織全体の制度対応力を底上げすることが、「GeNom for Energy」の真の提供価値です。

グリッドは今後も現場の皆様の声に寄り添い、日本の重要業務を担うプロフェッショナルたちの知見継承に貢献してまいります。

今回ご紹介した「GeNom for Energy」につき、「自社でも使ってみたい」「実際の画面を触ってみたい」という方は、ぜひこちらからトライアルをお申し込みください。お問い合わせをお待ちしております。