2019 年 4 月に量子コンピュータ向けアプリケーション開発フレームワークとして ReNom Q をリリースしました。また2019年7月より、IBM Q Networkに参加し、IBMが提供する最新の汎用近似量子コンピュータを利用しながらソフトウェア、アルゴリズムの開発を行ってまいりました。 グリッドは、量子コンピュータ実用化を見据えて、これまでのAI開発の知見を活かし、 1)量子機械学習のアルゴリズム開発 2)量子コンピュータを使った最適化問題 3)新素材開発に向けた量子計算 4)量子モンテカルロ法のアルゴリズム開発 といった研究開発を行っています。
ReNomQは、量子コンピュータソフトウェア研究、開発として主に3つの機能を持っています。
実機の量子コンピュータで利用可能な、最適化問題・量子機械学習分野を中心としたアプリケーション開発を行うことができます。
量子コンピュータでは、古典コンピュータで行われている計算と概念が異なります。古典コンピュータ用のアルゴリズムで行っている計算式をそのまま量子回路にできない場合もあり、量子コンピュータにとって適切なアルゴリズムを再構築する必要があります。 GRIDではこれまで培った機械学習のアルゴリズムのノウハウを生かして、従来の古典コンピュータで使われる機械学習アルゴリズムを、量子回路化することに取り組んでいます。 すでにディープラーニング等で使われるオートエンコーダーを、量子アルゴリズム化して量子オートエンコーダーとして発表したほか、量子PCA(量子主成分分析)や、量子SVMを開発してまいりました。将来、機械学習分野において量子コンピュータが使われることで、AIの学習精度の向上が期待されています。 グリッドでは、量子機械学習の研究成果として、量子回路をAPI化し、ライブラリとして実装しています。
量子コンピュータシュミュレータでは、量子コンピュータ上で動作する量子ゲートがAPI化されており、古典コンピュータ上で量子コンピュータの動きをシミュレートすることが可能です。この量子ゲートを使って、様々な量子アルゴリズムを開発することができ、量子コンピュータで量子回路を実行した場合の計算結果を得ることができます。この量子コンピュータシミュレータにより、実機の完成に先駆けた、量子アルゴリズムの開発研究を進めることができます。
グリッドでは、これまで機械学習におけるフレームワークの独自開発、アルゴリズムの開発を精力的におこない、社会インフラ分野のAI化に寄与してまいりました。量子アルゴリズムでは、グリッドの原点であり強みでもある機械学習を発展させた「量子機械学習アルゴリズム」をはじめとし、「量子最適化」・「量子モンテカルロ」・「量子化学計算」の4分野でのアルゴリズム開発をしています。
機械学習の精度向上のボトルネックとなっている「過学習」が、量子機械学習器においては過学習しにくいという性質を詳細な数値実験を通して示し、その根拠となる理論を世界で初めて提示しました。
様々な量子アルゴリズムで採用されている汎用的な量子回路について、量子ビットの数と量子回路の深さなどがモデルの表現力と過学習にどう影響するかを研究しました。その結果、量子回路の深さを増加させ(古典ニューラルネットワークを多層にすることに対応)パラメータを増加させると、ある地点でモデルの表現力が飽和することを、様々な数値実験で見出しました。さらに、この事実の理論保証を与えるため、本研究では、モデルの複雑性の指標であるV C次元が上限値をもつことを証明しました。このことは、訓練誤差と汎化誤差の差分の拡大が進まないことを意味し、つまり量子回路は過学習しにくいことを示しています。
現在、実用化に期待がかかる汎用型「ゲート方式」量子コンピュータですが、現時点ではNISQと呼ばれ、実用的な問題を解く為にはメモリの制限やハードウェアのノイズによって計算能力が制限されるという課題があります。その為、現状の性能では実用的な問題に適用することは難しいとされていました。 今回グリッドが開発に成功したQDPはこうした、量子コンピュータが抱える現状においても、量子コンピュータ上で実用的な問題を解くために有効なアルゴリズムです。
今回の開発では、機械学習分野で使われる分類問題に対して、本アルゴリズムの有用性を実証しており、同じ性質の古典的アルゴリズムであるKernel SVMと比較して、モデルの学習にかかる計算速度について理論的に優位性があることを確認しております。また、モデルの複雑性の指標であるVC次元上限値を導き出すことにより、アルゴリズムの学習可能性を理論的に証明しました。 QDPは、古典コンピュータにおいて計算量の多い問題について計算を簡略化させ、計算時間削減を可能にするアルゴリズムである動的計画法を、古典コンピュータと量子コンピュータ双方を使い計算するハイブリット型として量子回路化させたものです。AI分野で使われる強化学習で行う計算を対象にQDPの有用性を実証しており、同じ性質の古典的アルゴリズムと比較して理論的に計算速度、探索空間規模において優位性があることを確認しております。
量子コンピュータは、特徴表現の強化や高次元の状態や関数の近似に有用であることが最新の研究により判明しています。またNISQ環境では量子ー古典ハイブリッドアルゴリズムが提案されており、古典コンピュータが担う役割は、量子回路のパラメータ調整、パラメータ最適化、パラメータ更新であると考えています。こうした背景から量子誤差逆伝播法の開発にいたりました。
本アルゴリズムは、世界最古の量子アルゴリズムであるDeutsch-Jozsa アルゴリズム(以下、「DJアルゴリズム」)から着想を得て、その原理と古典的なクラスタリングアルゴリズムであるdensity-based spatial clustering of applications with noise (DBSCAN)とを融合させた、サポートベクターマシン(SVM)などのような、分類問題を解く新たな機械学習アルゴリズムです。 従来の機械学習アルゴリズムでは、データを分類する際に、分類の決め手となるデータをひとつひとつ吟味して判定していましたが、本アルゴリズムでは多数のデータから決め手となるデータを少ない回数で判断するDJアルゴリズムの特徴を活かして、効率的に学習することが可能です。 今回の開発では、機械学習分野で使われる分類問題に対して、本アルゴリズムの有用性を実証しており、同じ性質の古典的アルゴリズムであるKernel SVMと比較して、モデルの学習にかかる計算速度について理論的に優位性があることを確認しております。また、モデルの複雑性の指標であるVC次元上限値を導き出すことにより、アルゴリズムの学習可能性を理論的に証明しました。
機械学習で使うパラメータ最適化とパラメータ更新の勾配を効率的に計算できる勾配降下法に基づく誤差逆伝播アルゴリズムを量子回路学習用として開発しました。
量子コンピュータは、特徴表現の強化や高次元の状態や関数の近似に有用であることが最新の研究により判明しています。またNISQ環境では量子ー古典ハイブリッドアルゴリズムが提案されており、古典コンピュータが担う役割は、量子回路のパラメータ調整、パラメータ最適化、パラメータ更新であると考えています。こうした背景から量子誤差逆伝播法の開発にいたりました。
誤差逆伝播アルゴリズムを用いた量子回路学習で、1次元データの回帰や2次元データの分類を行うことに成功しました。従来手法(量子回路学習におけるパラメータ更新に有限差分法やSPSA法を用いたもの)と比べて、勾配計算にかかる計算時間が約200倍高速にすることを確認しています。
オートエンコーダーは、入力データの次元削減による特徴抽出、画像のノイズ除去、ニューラルネットワークの事前学習などに用いられる機械学習アルゴリズムです。量子コンピュータ上で動作する量子オートエンコーダーとして開発しました。
現在の量子コンピュータは量子ビット数が限られており、ビッグデータの計算が困難です。そこで、機械学習で用いられる手法の一つである畳み込みフィルタを、グリッドが開発した量子オートエンコーダーに適用しました。
エンコード精度98%の条件下で、本来ならば計算するためには数百量子ビット以上も必要となる画像データを、わずか数量子ビットでノイズ除去することに成功しています。
乱数を発生させ、複数回シミュレーションを行ない、解を確率的に推定するアルゴリズムを、量子コンピュータ上で動作するアルゴリズムとして開発しました。
量子コンピュータを用いて線形方程式を解くことができると、ニューラルネットワークなどで使われる行列計算と同等の計算表現を量子コンピュータ上でもおこなうことができます。しかし、線形方程式を量子コンピュータ上で解くアルゴリズムとして、量子位相推定法を利用したものが提案されてきましたが、現在のNISQデバイスではQRAM(量子コンピュータ上でデータを保存する装置)が存在しないため、実行不可能とされていました。そこで、現実的な古典ー量子ハイブリッド線形ソルバーと乱数を発生させる量子ランダムウォーク回路を利用したモンテカルロ法によって特定の型の線形方程式を解くこができました。
ノイズに対してロバストがある為、NISQデバイスでも量子コンピュータを活用した機械学習などのアプリケーションへの実装が可能です。